写真・映像展「キベラ“スラム”から見つめる世界 ―語られてきた私から、語る私へ。―」
12名のアーティストが自らの視点で記録した写真・映像展「キベラ“スラム”から見つめる世界 ―語られてきた私から、語る私へ。―」展を2026年4月25日〜5月31日にアートセンターBUGにて開催

本展覧会では、ケニアの首都ナイロビにある巨大スラム・キベラに暮らす若者たちが、自らの手で撮影した写真・映像を通じて、「語られてきた存在」としてのスラム像を問い直し、「語る主体」として立ち上がります。
将来の夢を聞くと、多くの若者が「ジャーナリスト」と答えるのは、自身の存在を社会から疎外され続けた経験と、逆境の中でも未来を切り拓こうとする強い意志があるからです。寄付によって集まったカメラや、プロの写真家・映像作家による技術指導をきっかけに、彼らが自身の暮らし、よろこびや苦しみ、働く姿や生きる希望を記録しはじめました。これは単なる記録ではなく、「語る力」を獲得していく過程そのものであり、これまで外部の視点によって一方的に消費されてきた「スラム」のイメージを、本人たちの手で再定義していく行為でもあります。
本展では、100点を超える作品と、アーティスト自身による作品解説映像などを展示します。会期中には、キベラで暮らす若者に聞いてみたいことを質問し、後日返事が届く“対話”の機会を設けるなど、被写体と観客のあいだに「語りの往復」が生まれる場をつくりだします。東京の中心とはかけ離れたケニアのスラムでの視点をBUGのホワイトキューブに持ち込むことで、「表現すること」の根源的な力、そして、よろこびを問い直す試みです。
見どころ
1. ラベリングされた風景からの再発見
「スラム」という言葉から、多くの人が思い浮かべるイメージは、貧困や犯罪、希望のなさといったステレオタイプなものかもしれません。しかし、その言葉によって一括りにされてきた場所のなかにも、人々の営みやよろこび、誇りといった多様な瞬間があります。
本展では、キベラで生まれ育ったアーティスト自身が、自らの視点で日常の風景や伝えたい物語を作品として表現します。なかには、自身で脚本を手がけ、映像制作に取り組んだ作品も含まれています。
キベラは世界的に知られる都市型巨大スラムであり、これまでも著名な海外アーティストによる制作活動が行われてきました。しかし本展では、キベラを「素材」や「舞台」として扱うのではなく、そこに暮らす人々が自らのコミュニティや経験を語る主体となることに焦点を当てます。
外部のまなざしによって語られてきた風景を、内側からの表現によって見つめ直す試みです。
2. 制約のなかで生まれる表現の輝き
出展するアーティストの多くは、自身のカメラやパソコンを持っておらず、限られた自己資金でレンタルした機材や、限られたデータ通信量のなかで制作を行っています。また、高解像度のデータを保存するためのストレージを持たない場合も多く、気軽に多くの作品を高解像度で保存できる環境にはありません。
そのため、展示作品のなかには、画質や編集の面で差異として知覚されるものも含まれています。しかし、それは個人の技術や意欲の有無によるものではなく、利用可能な機材やソフトウェア、通信環境といった制作条件の違いによって生じています。
どのような環境にあっても、人は表現し、創作することができます。一方で、使用できるツールや制作手段の制限は、作品の画素数や解像度、映像表現の幅といった部分に影響を与えます。
本展では、作品の完成度を個人の能力や努力に起因するものとして捉えるのではなく、誰がどのような条件のもとで表現の機会を得ているのかという視点から、選択肢の不均衡を生み出している社会構造の存在に目を向けるとともに、そのなかでも立ち上がる表現のよろこびや創造の熱意を感じていただける機会となることを願います。
3. 作品の見え方と評価の変化を体験する
作品の背後にある制作環境や背景を踏まえて鑑賞することで、同じ作品であっても、その見え方が変化していく体験を提示します。
もし制作環境や社会的背景を知らずに作品を見た場合、画質や音質、編集の手法といった形式的な要素が、技術的な完成度として捉えられてしまうかもしれません。しかし、それらがどのような制作条件のなかで生まれているのかを知ったとき、作品に対するまなざしは変化します。
本展は、解像度や編集手法といった形式的な基準だけでは捉えきれない表現の価値に触れることで、鑑賞者自身が無意識に持っている評価の前提や、作品を見る際のまなざしを見つめ直すきっかけとなることを目指します。
関連イベント
■トークイベント
「レンズを介した対話 ― キベラの若者との交流で見えてきたこと」
日 時:2026.5.9(土)19:00〜20:30
登壇者:池谷常平(ビデオグラファー)
政近遼(フォトグラファー)
司 会:坂田ミギー
「キベラとともに歩んだ30年」
日 時:2026.5.17(日)15:00〜16:30
登壇者:早川千晶(平和活動家)
司 会:坂田ミギー
「ともにつくる仲間としてのキベラ」
日 時:2026.5.23(土)19:00〜20:30
登壇者:藤井賢二(株式会社たきコーポレーションCDO / クリエイティブディレクター)
司 会:坂田ミギー
「アーティスト・イン・レジデンス成果発表」
日 時:2026.5.30(土)19:00〜20:30
登壇者:Sir.jeree(フォトグラファー)
Frankline Olando(フィルムメイカー)
Vin Sekani(フィルムメイカー)
司 会:坂田ミギー
■企画者によるガイドツアー
日 時:2026.4.26(日)15:00〜15:30
2026.5.9(土)15:00〜15:30
2026.5.23(土)15:00〜15:30
ガイド:坂田ミギー
詳細・予約方法はアートセンターBUGウェブサイトをご覧ください。
https://bug.art/exhibition/crawl-sakata/
企画者・坂田ミギーからのメッセージ
本企画は、企画者である坂田ミギーが、ケニア・ナイロビのキベラにおいて約13年にわたり教育支援や表現活動に関わるなかで、外部の視点から語られてきたキベラではなく「ここで暮らす人々にしか語り得ない経験や風景があるのではないか」と考えてきたことに端を発しています。キベラに暮らす若者やアーティストが、自らの視点で日常や社会を記録し、発信できる機会を創出することを目的に、本企画の構想が進められました。
その具体的な取り組みとして、映像作家の池谷常平およびフォトグラファーの政近遼が中心となり、日本国内で使われなくなったカメラを収集・寄付するとともに、現地の若者に向けた写真・映像制作の技術指導を行うプロジェクト「KIBERACTION」を実施しています。本プロジェクトの一環として、2025年4月および2026年1月にワークショップを開催し、ムービーおよびスチール撮影の基礎的な技術レクチャーに加え、参加者自身による企画立案や撮影実習を行いました。
寄付されたカメラは現在、現地メンバーによって共同管理されており、申請制で共有利用できる仕組みのもと、継続的な制作活動に活用されています。ワークショップ参加者の中には、自ら脚本を執筆し、出演者を募り、寄付された機材を用いて短編映像作品を制作するなど、主体的な創作活動を行う若者も現れました。こうした姿を目の当たりにするなかで、キベラに暮らす人々自身が、自らの経験や視点をもとに地域を語る作品を生み出し始めていることを実感しています。
このような取り組みを踏まえ、坂田はキベラに暮らすアーティスト自身が、自らの視点で地域について語る展示を実現したいと考えていました。そうしたなか、アートセンターBUGが主催するアートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」において本企画が選出されたことで、東京での展示機会が実現しました。
これを受け、ワークショップ参加者に限らず、すでにキベラで写真家や映像作家として活動しているクリエイターにも広く呼びかけを行い、日本での展示機会を通して自らの作品や視点を発信したいと考える人々から応募を募りました。その結果、32名から応募が寄せられ、書類選考および対面形式のオーディションを経て、最終的に12名の作家を本展の出展者として選出しています。
本展では、こうしたプロセスを経て展示される写真・映像作品を通して、キベラに暮らす若者たちの経験や視点に基づく表現をご覧いただきます。